成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~技術的依存から自律へ~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~技術的依存から自律へ~

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想像してみてください。あなたの工場の生産ラインが、一つの巨大な機械に頼り切っている状況を。その機械は確かに全てをこなしますが、小さな調整にも膨大な時間がかかり、一箇所の故障が全工程を停止させてしまう。これが、多くの企業のIT環境の現状です。「我が社のシステムは時代遅れだ」、「新しい機能の追加に膨大な時間がかかる」、「部門間の連携がスムーズでない」、こうした悩みを抱えていませんか?デジタルトランスフォーメーション(DX)は、もはや選択肢ではありません。必須条件なのです。しかし、多くの企業が直面している「技術的依存」という見えない敵が、その歩みを阻んでいます。

本稿では、この「技術的依存」の実態と、それを打破する「自律的システム」について、考察します。本稿が、貴社のDX戦略を再考し、競争力を飛躍的に高める契機となれば幸いです。

 

2024年9月29日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)

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<目次>

1.モノリス構造を持った基幹システム

2.密結合が企業のアジリティを蝕む

3.サービス指向の自律的なシステムの構築

4.自律的なWMSの導入が物流部門を自律的な組織に変貌させる

1.モノリス構造を持った基幹システム

私たちの任務は一見単純でした。倉庫業務の基本要素である、入荷、在庫管理、出荷をWMS(倉庫管理システム)で最適化することでした。当初、この改善は私たちが持つWMSとユーザー企業の生産管理システムの軽微なカスタマイズで済むと楽観視していました。しかし現実は違いました。プロジェクトが進むにつれ、予想外の複雑さが露呈していきました。
販売管理システムの再構築、生産計画システムの抜本的な見直しなど、次々と浮上する課題に、私たちは膨大な労力を費やすことを余儀なくされたのです。

何かがおかしかったのです。

この予期せぬ困難の根源には、ある重大な問題が潜んでいたのです。それは、技術的依存関係です。その瞬間、私たちは身をもってこの会社のシステムの実態を知ったのです。
それは固い岩盤のようなモノリス(一枚岩)構造を持つ基幹システムがあらゆる部門の活動を制約しているということです。全ての機能が一つの巨大なプログラムに詰め込まれ、
相互に密接に絡み合っていたのです。ソフトウェア工学では、このような状態を「密結合」と呼びます。この経験は、技術的依存関係がいかに組織のアジリティ(俊敏性)を阻害し、単純な改善でさえも複雑な作業に変えてしまうかを如実に物語っていました。

かつてはシンプルだったこのソフトウェアは、際限なく拡張され続ける機能要求に応えるうち、どんどん複雑さを帯びていきました。それは、巨大化するソースコードの塊と化し、その中で依存関係という厄介な問題が日に日に深刻化していきました。皮肉にも、ビジネスの中枢を担うはずの基幹システムが、デジタルトランスフォーメーション(DX)を阻む最大の障壁となっていたのです。この技術的負債は、もはや無視できないレベルに達していました。

2.密結合が企業のアジリティを蝕む

この技術的依存の呪縛は、物流部門の日常にも深く根を下ろしていました。荷主の追加、商品の登録、出荷処理の微調整、顧客ニーズへの対応など、全てが基幹システムに縛られ、身動きが取れない状態だったのです。彼らの業務は、情報システム部門との絶え間ない調整の連続となり、一歩進むにも多大な労力を要しました。さらに厄介なことに、この依存関係は部門の壁を軽々と越え、蜘蛛の巣のように組織全体に広がっていました。物流部門の要望によって行われた基幹システムの軽微な変更ミスが、営業や生産部門の業務を麻痺させる可能性すらあったのです。

基幹システムの変更は、まるで地雷原を歩くようなものでした。慎重を期すあまり、会議は重苦しい雰囲気に包まれ、情報システム部門や開発ベンダーは極度に用心深くなっていきました。
そして、変更要求は山積み。各部門からの依頼は長蛇の列となり、待ち時間は耐え難いほどに膨れ上がっていったのです。この技術的依存は、組織のアジリティ(俊敏性)を根こそぎ奪っていました。本来なら短時間で済むはずの作業が、まるで足かせをつけた三脚競走のごとく、のろのろと前に進むことすらままならない状況でした。

急成長を目指す企業にとって、これは致命的なハンデを負った状態です。さらに悪いことに、時間の経過とともにこの結合は強まるという特性を持っています。


3.サービス指向の自律的なシステムの構築

では、この呪縛から解放される道はあるのでしょうか。答えは「ある」です。それが「自律的なシステム」の構築です。自律的なシステムとは、各部門が自由にコントロール可能な状態を指します。私たちはこれを「ユーザーが主役」と呼んでいます。簡単そうに聞こえるかもしれませんが、現実はそう甘くありません。長年の慣習という鎖を断ち切り、呪縛を解放することの難しさは、経験者にしか分からないでしょう。真の意味でDXを体現する企業になるには、ソフトウェア・アーキテクチャの再構築だけでは不十分です。開発手法、運用保守、データ管理など全てを根本から見直す必要があります。これは並大抵の覚悟では成し得ないのです。

技術的な依存に基づくシステムには、大きな課題があります。複数の部門が、ひとまとまりのコンピュータプログラムやデータベースに直接アクセスすることで、互いに足を引っ張り合うことになります。誰かがプログラムの動作やデータ構造を変更したり、共有されているリソースを用いて新機能を構築したりすると、関連するすべての人がリスクにさらされる状況が生まれます。
このような不具合を避けるためには、各部門間での調整に膨大な時間を費やさなければならず、生産性を著しく損なうことになります。

この変革の鍵を握るのが、サービス指向アーキテクチャ(SOA)です。SOAは、データとビジネスロジックをカプセル化し、明確に定義されたインターフェースを通じてのみアクセス可能にします。
プログラムやデータベースの要素を「カプセル化」し、それぞれに管理権限を割り当てる手法です。カプセル化された領域から情報を取得したい場合は、決められた手順に従い、APIを通じてサービスを要求する必要があります。データの民主化という概念は、自由にデータへアクセスできることを意味しているわけではありません。むしろ、無秩序なアクセスを許せばシステムは無法地帯となり、混乱を招くばかりです。たとえば、道路から信号や制限速度といったルールがなくなったらどうなるでしょうか。事故や渋滞が頻発し、目的地に無事に到達するのは難しくなるでしょう。

■自律的なシステムへ変革する戦略マップ

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4.自律的なWMSの導入が物流部門を自律的な組織に変貌させる

サービス化されたシステムを構築できれば、立ち止まることなく事業を推進することができるようになります。自律的なサービス指向のシステムを、サッカーチームで例えてみましょう。
サッカーチームの各選手は、それぞれのポジション(FW、MF、DF、GK)に特化した役割を持っています。これは、サービス指向システムの各サービスが特定の機能に特化していることに似ています。

各選手(サービス)は、自分の役割を理解し、自律的に判断して行動します。そして、選手たちはパスを通じて連携します。これは、サービス間のAPI呼び出しに相当します。パスは決められたルールに従って行われ、それぞれの選手の強みを生かす形で行われます。試合中、状況に応じて戦術を変更することがありますが、これは個々の選手の基本的な役割を大きく変えることなく行われます。これは、サービス指向システムで個々のサービスを変更せずに、全体の流れを変更できることに似ています。また、サッカーは最終的に観客を楽しませるためのものです。
同様に、サービス指向システムも最終的にはユーザーの需要に応えることを目的としています。このように、理想的なサッカーチームのように、自律的なサービス指向のシステムは、各部分が専門性を持ちつつ自律的に機能し、全体として柔軟かつ効率的に目標を達成する仕組みなのです。

この移行には確かに大胆な投資と決断が必要です。またソフトウェア開発の知識がない読者には少し難しいかもしれません。しかし、その見返りは計り知れません。アジリティの向上、生産性の飛躍的な改善、高い拡張性、そしてレジリエンス(困難を乗り越える力)の強化など。これらはSOAがもたらす恩恵の一部に過ぎません。ユーザーが主役となった自律したシステムを構築するのは、一言でいえばスピードのためです。足並みを揃えて目的地に向かえば短時間で遠くまでいけます。そこで各部門は、正しい方向を向き、必要なときには速やかに軌道修正するためのツールをもっていなくてはなりません。物流部門にとっては、自律的なWMS(倉庫管理システム)がそのツールとなります。

サービス指向で設計されたWMSの導入は、真のDX推進への第一歩となることでしょう。変革の道のりは決して平坦ではありません。しかし、この挑戦を避けては通れないのです。サービス指向への移行は、各部門の迅速な動きを妨げていた制約を取り除き、自律したシステムを活用することで、自律的な部門に変貌を遂げることができるのです。Amazon、Google、Netflixといった巨大テック企業が、この自律的システムの威力を十分に証明しています。あなたの会社が、5年後、10年後も競争力を維持し、成長し続けられるかどうかは、今日の決断にかかっています。

技術的依存の泥沼に留まり続けるのか、それとも自律的システムという未来に踏み出すのか。その決断ができるのは、経営トップの皆さんだけです。

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今回ご紹介したようなポイントをチェックして、定期的に自社のシステムを評価することで、技術的依存度の低減とDXの推進に向けた具体的な道筋を立てることができます。
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