成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~ソフトウェアファースト編~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~ソフトウェアファースト編~

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AI、デジタル・トランスフォーメーション(DX)、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)を活用したサブスクリプションビジネスなど、世界中の製造業がITを駆使したデジタルシフトを加速させています。このトレンドは、特に「事業のサービス化」として顕著に現れており、モノを作って売るだけではなく、サービスを提供するビジネスモデルへの移行が進んでいます。アメリカや欧州の企業は、いち早く「ソフトウェアファースト」というアプローチを取り入れ、デジタル基盤を整備しています。日本の製造業もこの世界的な流れに乗り遅れることなく、競争力を強化するために大きな変革が求められています。

製造業における物流(ものづくり物流)は、これまで物理的なモノの流れと効率化が中心でした。しかし、物流もまたデジタルシフトを迫られています。特に、ソフトウェアを基盤とした「見える化」や最適化が進む中、製造から配送までの全ての工程を統合し、リアルタイムで管理することが求められています。この物流プロセスの最適化についても、ソフトウェアファーストの考え方が欠かせません。従来のハードウェア依存型の管理から脱却し、ソフトウェアを中心に据えたサプライチェーン管理(SCM)や倉庫管理(WMS)が不可欠です。

物流デジタル戦略によって、顧客に最適な価値を提供するには、早期にソフトウェアファーストへ移行し、仮説検証型の開発と内製化とそれを実行できる人材を確保するためのリスキリング(再教育)が重要になります。本稿では、製造業における物流デジタル戦略の具体的なアクションプランとして、ソフトウェアファーストによる仮説検証、内製化、リスキリングを組み込む方法について詳しく解説します。

 

2024年9月15日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)

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<目次>

1.生産システムを構造的に理解し、課題を見極める

2.物流は生産システムの司令塔

3.ソフトウェアファーストのアプローチ

4.トヨタによって認知されたソフトウェアファースト

1.生産システムを構造的に理解し、課題を見極める

お客様からオーダーを受け、その情報や仕様を基に製品を製造し、納品する一連のシステムを「生産システム」と呼びます。このシステムを支えるのは、工場を中心とした製造現場です。生産システムは、Man(人)、Machine(機械)、Material(材料)、Method(方法)という4Mで構成され、これらの組み合わせにより様々な生産形態が生まれます。スマートファクトリーが目指すのは、この生産システムのスマート化です。その実現には、ソフトウェアファーストの考え方が重要です。

生産システムをスマート化するには、その能力がどこで決まるのかを構造的に理解し、クリティカルな課題を見極めることが重要です。少し話が難しくなりそうなので、分かりやすくサッカーの戦術に例えてみましょう。

サッカーチームは、11人の選手がポジションごとに役割を果たしながらチーム全体で勝利を目指します。生産システムも同様に、4Mが連携して成果を生み出します。サッカーの試合では、いくつかの要素が勝敗に大きく影響しますが、生産システムにおいても同じです。

1.ポジションのバランス(4Mのバランス)
サッカーで重要なのは、攻撃と守備のバランス、選手の配置が効果的であることです。攻撃にばかり集中すると守備が手薄になり、逆に守備に偏ると得点が難しくなります。生産システムにおいても、4Mがバランスよく機能する必要があります。例えば、最新の機械を導入しても、操作する人材(Man)が適切に教育されていなければ、その効果は発揮できません。また、材料(Material)が不十分であれば、生産ライン全体が停滞してしまいます。

2.ゲームプラン(全体の最適化)
監督が試合前に立てる「ゲームプラン」は、攻撃・守備の戦術、選手の動き方、試合展開を見据えた指示が含まれます。これを生産システムに置き換えると、企業が描く全体最適化のビジョンに相当します。個々の機械や方法を最適化するだけでは不十分で、生産システム全体の動き方(ワークフローやプロセスの設計)を考慮することが肝心です。最適な生産フローが構築されていれば、突発的なトラブルにも柔軟に対応できるようになります。

3.スター選手(クリティカルな要素)
どんなチームにも「スター選手」が存在し、その選手が試合の流れを大きく左右します。同様に、生産システムにも重要なクリティカルポイントが存在し、その要素が全体のパフォーマンスに大きく影響します。例えば、機械の故障が多発すれば、全体の生産性が大幅に低下します。また、サプライチェーンの中で原材料の供給が滞れば、生産が止まることがあります。こうしたクリティカルなポイントを特定し、優先的に解決することがシステム全体のパフォーマンス向上に繋がります。この点はボトルネックを特定して生産システムの効果性を高めるTOC理論とも合致します。

4.即時の対応力(リアルタイムのデータ活用)
試合中、選手たちは状況に応じて瞬時に判断し、ポジションを変えたり、攻守の切り替えを行います。生産システムにおいても、リアルタイムでデータを活用し、即時の調整ができる能力が求められます。例えば、センサーやIoT技術を活用して各プロセスの状況をモニタリングし、異常が発生すればすぐに対応できるようにすることが、スマートファクトリーの強みとなります。

サッカーの戦術と同様に、生産システムにおいても全体のバランスを保ち、クリティカルなポイントを見極め、リアルタイムで最適な対応を行うことが、スマートファクトリーを実現し、競争力を高める鍵となります。

2.物流は生産システムの司令塔

生産システムの構造的理解に続いて、次に注目すべきはそのシステムを支える「物流のスマート化」です。物流は、生産システムの一部でありながら、製造現場とお客様を結ぶ重要な役割を担っています。この物流のスマート化を、ソフトウェアファーストで実現することが、生産全体の効率と柔軟性を飛躍的に向上させます。

物流はサッカーにおける「司令塔」の役割に相当します。試合中、司令塔はピッチ全体を見渡し、パスを通すことでチーム全体の攻守を円滑に進めます。物流も同様に、原材料や製品を適切なタイミングで必要な場所に届けることで、製造ラインや納品プロセス全体をスムーズに進行させる役割を果たします。この物流の効率性や柔軟性が、生産システム全体のパフォーマンスを大きく左右します。もし物流が滞ると、サッカーの試合でパスがうまくつながらない状況に似た問題が発生し、製造が遅れたり、納品に支障が出たりします。

物流のスマート化を実現するためには、ソフトウェアファーストのアプローチが重要です。ソフトウェアによって物流の動きをリアルタイムで管理し、データに基づく最適化が可能となります。これは、サッカーの監督が試合中に選手の動きを見ながら戦術を瞬時に変更するようなものです。ソフトウェアファーストで物流を管理することで、サプライチェーン全体の可視化が進みます。サッカーにおける司令塔がピッチ全体を把握しているように、物流システムも原材料の調達から製品の最終配送まで、すべての動きを可視化することが重要です。

この可視化によって、突発的な需要変動や物流トラブルに柔軟に対応できる体制が整います。例えば、あるルートで渋滞や災害が発生した場合、ソフトウェアが代替ルートを即座に提案し、配送の遅延を最小限に抑えることができます。また、異常が発生する前にセンサーやIoT技術によって予測し、トラブルを未然に防ぐことも可能です。また物流がスマート化されることで、顧客のニーズにも迅速に対応できます。これは、サッカーでゴール前のチャンスを逃さず、素早くパスを通して得点を決めるようなものです。例えば、顧客が突然の発注変更や急な納品要求をした場合でも、ソフトウェアを通じた柔軟な在庫管理や配送調整が可能になります。

サッカーの司令塔が試合をコントロールするように、ソフトウェアファーストによって物流をスマート化することは、生産システム全体のパフォーマンスを左右する鍵となります。生産と物流の両方がソフトウェアによって密接に連携し、デジタルシフトを実現することで、企業全体の競争力が飛躍的に向上します。


3.ソフトウェアファーストのアプローチ

ソフトウェアファーストの考え方は、製造業における物流プロセス全体に革命をもたらす可能性があります。物理的な資産に依存するのではなく、デジタル技術を最大限に活用し、サプライチェーンを最適化することで、グローバル市場での競争力を維持し、顧客ニーズに迅速に対応することが可能です。
「物流デジタル戦略による顧客価値の最大化」において、ソフトウェアファーストの早期移行は、まさにその成功の鍵となります。その中で特に重要なポイントは、以下の3つです。

1. 仮説検証型の開発アプローチ
従来の物流システム開発は、長期的な計画に基づいて慎重に構築されることが一般的でしたが、今日の急速に変化する市場では、仮説検証型の開発が不可欠です。これにより、顧客のニーズや市場の変化に素早く対応し、最適な物流ソリューションを提供できます。最初に仮説を立て、小規模な実験やテストを行い、その結果を基に迅速に改善を繰り返すアプローチが、ソフトウェアファーストの物流に適しています。

2. ソフトウェアの内製化
物流のデジタル戦略において、ソフトウェアの内製化は、顧客に提供する価値のカスタマイズを迅速かつ柔軟に行うために極めて重要です。外部ベンダーに頼るだけでは、内部での専門知識や柔軟性を失いがちです。自社内でソフトウェア開発能力を持つことができれば、独自の物流課題に特化したソリューションを提供し、競争優位性を保つことができます。内部リソースでシステムを改善できるため、顧客フィードバックに基づいた改善や、新たなビジネスニーズへの対応がスピーディに行えます。

3. リスキリングによる人材の確保と育成
ソフトウェアファーストへの移行を成功させるには、それを実行できる優秀な人材の確保と育成が必要です。特に、物流業界ではデジタル化への対応が急務であり、リスキリング(再教育)によってデジタル技術に精通した人材を育てることが重要です。物流に従事する従来の人材に対して、デジタル技術やソフトウェア開発に関するスキルを習得させるリスキリングを行うことで、新たな価値を創出できる人材を育成できます。特に、AIやデータ分析、ソフトウェア開発の知識を持つ人材が求められており、企業の長期的な競争力を支えることになります。
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4.トヨタによって認知されたソフトウェアファースト

製造業ではこれまで、ハードウェア中心の開発が主流でした。ハードウェアとソフトウェアはそれぞれ独立した要素として扱われ、連携することは限られていました。しかし、これからは顧客にいかに寄り添い、柔軟に対応できるかが成功の鍵となります。今後、製品の規模に関わらず、ソフトウェア主導の開発がスタンダードになるでしょう。例えば、スマートフォンは日々機能拡張やUIの変更を通じて、顧客に利便性を提供し続けています。また、クラウド化が進行する中で、サービスはサブスクリプション型のビジネスモデルが増加し、顧客との継続的な関係が重視されるようになっています。製造業においても、OTA(Over-the-Air)技術の進歩により、無線通信を介してプログラムの修正が可能となり、製品の更新がリアルタイムで行える時代に突入しました。

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このように、ソフトウェアファーストの概念を製造業に取り入れることは、顧客獲得や競争力維持のための重要なミッションとなります。この概念が広がりを見せた背景には、2019年に出版された『ソフトウェアファースト』という書籍の影響が大きく、その翌年、2020年にトヨタ自動車が同戦略を公式に宣言したことが重要な転機となりました。この動きを契機に、製造業各社は、従来のハードウェア中心のアプローチから脱却し、ソフトウェアを基盤に据えた新たなビジネスモデルへの変革を模索し始めました。ソフトウェアがビジネスの中心を担う時代に突入した今、製造業もまた、このデジタルシフトの波に迅速に対応することが求められています。

物流は単なる製品の移動を超えて、顧客体験の質を左右する重要な要素です。その実現のためには、仮説検証型の開発アプローチ、内製化、人材のリスキリングが不可欠です。結論として、ソフトウェアファーストの戦略は、製造業において避けて通れない時代の潮流です。この概念を積極的に戦略に組み込むことで、変化の激しい市場環境でも顧客に対して常に最適な価値を提供し続けることができるでしょう。この変革を成功させることが、次世代の競争力を左右する鍵となるのです。

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