成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~DXフレームワーク編~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~DXフレームワーク編~

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 画像素材:EpoWave /PIXTA(ピクスタ)

日本の製造業が輸出から現地への直接投資(FDI)へと稼ぎ方を大きく転換していく中で、デジタル技術を活用した物流の変革は、ビジネスモデルなどの事業戦略レイヤーから現場の改善レベルに至るまで、あらゆる場面に広がっています。物流のデジタル化により、何を実現したいのか、そのために具体的に何をしていくべきかを明確にすることが求められています。DX(デジタルトランスフォーメーション)や最新テクノロジーについて書かれた書籍は数多く存在しますが、具体的にどこにどのように導入すれば良いかを示す教科書はありません。本シリーズ「成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略」は、そうしたニーズに少しでもお応えしたいという思いで執筆しています。私は物流領域のデジタル化を専門としていますが、物流現場だけでなく、ものづくり全体を俯瞰し、ものづくり戦略に直結する形での物流デジタル構築を具体化することが本稿の目的であり、自らに課したミッションです。

読者の皆さまが描かれる物流デジタル化の姿は、環境、事業特性、ポジションによってきっと様々であることでしょう。しかし、本稿がそうしたアイデアのベースとなり、皆さまが思い描く理想像の実現に向けて一助となれば、これほど嬉しいことはありません。

 

2024年6月16日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)

2024.06.21倉庫運用DX化!!これからのシステム導入に大切なこと
<目次>

1.貿易収支の赤字と所得収支の増加

2.デジタル技術革新と収益構造変化

3.ものづくり現場における物流デジタル化のシナリオ


1.貿易収支の赤字と所得収支の増加

財務省が2024年2月8日に公表した「国際収支状況」によると、貿易収支は、2022年には15.7兆円の貿易赤字を記録しており、これは1996年以来の最大の赤字です。一方で、第一所得収支は35.3兆円となり、1985年以来で過去最大となっています。第一所得収支の増加は、海外での投資収益や配当金の受取が増えていることを示しています。日本の製造業は輸出の減少を補うために、海外での現地生産や売上を増加させています。この動向は主に以下の要因によって支えられています。

1. グローバル生産ネットワークの構築

日本企業は、現地の需要に迅速に対応するため、海外に生産拠点を設けています。これにより、輸送コストの削減や関税の回避が可能となり、競争力を維持することができます。また、現地生産は、雇用を創出し、現地経済に貢献することで、地域社会との関係を強化することにも寄与しています。

2. ローカルマーケットへの対応

現地市場の特有のニーズに対応するために、製品のカスタマイズやローカルブランドの展開を積極的に進め、現地での市場シェアを拡大しています。また現地でのサービス提供(アフターサービス、メンテナンスなど)もどんどん強化されており、現地での顧客満足度を高めつつブランドを強化しています。

3. 通貨リスクの軽減

現地生産によって、為替リスクを軽減し、収益の安定化を図っています。

4. グローバルな物流ネットワークの最適化

海外に生産拠点を持つことで、サプライチェーン全体の効率化が図られ、コスト削減や納期の短縮が可能となっています。

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(出典:財務省作成の国際収支状況より)

2.デジタル技術革新と収益構造変化

1992年にインターネットが普及し始め、ネットワーク性能が向上するにつれて、グローバルなビジネス取引や情報の交換が劇的に増加しました。特にクラウド技術の進展により、企業はデータを迅速かつ効率的に管理・共有できるようになり、国際的なビジネス機会を拡大しました。これが第一所得収支の増加に寄与している可能性は否定できません。インターネットとクラウド技術の発展により、多くの企業がデジタルツールを活用して効率を向上させ、コストを削減しました。これにより、非営業活動からの利益(例えば、投資収益や為替差益)が増加し、営業外利益が増加する結果となりました。営業外利益は右肩上がりで増加しており、その大きさは、営業利益の50%超(30兆円)にもなります。

非営業活動からの利益が増加している背景には、海外投資の拡大や為替レートの変動、低金利環境下での資産運用の多様化、資産の売却、金融商品の活用、そして経済環境の影響が大きく関与しています。これらの要因により、製造業は営業活動以外からの収益を増加させ、全体的な利益を押し上げています。

このように、さまざまなデジタル技術が新たな価値を生み出し、産業や地域全体に構造的な変化をもたらしています。「ユーザー」は多岐にわたる最新テクノロジーに振り回されることなく、自社に最適な選択をし、そしてそれを使いこなすデジタルスタンスを持つことが重要になります。経営者がデジタルに不慣れであることは言い訳になりません。日本企業が本来持っている”現場の力”を活かすために、デジタル技術は大変有益です。経営者が恐れることなくデジタル技術を取り入れ、これまで培ってきた現場の強みとうまく結びつけることで、望む未来に向けてスピードを上げることができるのです。


3.ものづくり現場における物流デジタル化のシナリオ

先日、ザ・プリンス パークタワー東京で開催された「Salesforce World Tour Tokyo」に参加しました。3日間のイベントでしたが、スケジュールの都合により2日間だけ参加し、時間の許す限り興味のあるセミナーを聴講しました。そこで、繰り返し語られていたのが「信頼性の高いデータを皆さんはすでに持っている」という言葉でした。そのデータをベクトルデータベース化し、AIに力を与えるというメッセージが強調されていました。本イベントのメインテーマは完全にAIだったので、このような話題が中心になるのは当然ですが、私が意外にも驚いたのは、「信頼性の高いデータを私たちはすでに持っている」という点でした。これからAIを活用するために新たにデータを集める必要はないというのです。ベクトルデータベースとは、データポイントを高次元のベクトルとして表現し、それらのベクトル間の類似性を効率的に検索・比較するためのデータベースです。従来のリレーショナルデータベース(RDBMS)やNoSQLデータベースとは異なり、機械学習やディープラーニングの分野で広く活用されています。

ものづくり現場にも、信頼性の高いデータが既にあるのであれば、これからの物流デジタル化戦略は、こうしたデジタル技術をどのように応用すればよいのだろうか。帰りの新幹線ではそればかりを考えていました。製造および物流プロセスのデータをベクトル化し、大量のデータを遅延なく共有し、分析と次のアクションにつなげる意思決定を支援する姿が浮かびました。例えば、エネルギー消費の削減や再利用可能な素材の使用推奨など、環境に配慮した製造・物流戦略を実現することも可能でしょう。ただし、こうした変革は一朝一夕に実現できるものではありません。企業内の各部門に散在する膨大なデータを収集し、適切に保管し、それを様々な切り口で分析した上で、経営者が意思決定できる仕組みとプロセスが必要です。企業がデジタル化戦略を立案する際、様々なシナリオが考えられますが、経産省が作成したDXフレームワークを活用するのも有効です(下図)。
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(出典:経済産業省作成 「DXレポート 2.0」より)

各ステップはデジタライゼーションからデジタルトランスフォーメーションに向かって左から右へ進行しますが、目指すデジタライゼーションやデジタルトランスフォーメーションをゴールに設定した上で、逆算して今後の取組を検討する際に役立ちます。企業は自社の現状に応じたDXの成功パターンを取捨選択し、組み合わせることで、自社のDX推進戦略の立案に役立てることが期待されます。

ただし、これらの定義はそれぞれ曖昧であり、自社のデジタル化戦略が果たしてDXに該当するかどうかといった議論にはあまり意味を感じません。むしろ、デジタル技術を活用して物流を変革するための現在地と方向性を示す道標として考え、利用すると良いでしょう。次回は、このDXフレームワークを使いながら、ものづくり物流における各社の共通の課題を抽出・整理し、物流デジタル化を目指すシナリオを作成する方法について解説しますので、お楽しみに!

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