成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~パラダイム編~|オープンソースの倉庫管理システム(WMS)【インターストック】

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成長を目指す製造業のための物流デジタル戦略 ~パラダイム編~

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 画像素材:metamorworks /PIXTA(ピクスタ)

ものづくりは、生産そのものを行う「生産活動」と、それを支える「物流業務」の大きく2種類の現場活動によって成り立っています。ものづくりにおいて、生産活動と物流業務は車の両輪のように密接に連携しており、どちらか一方の改善だけでは、全体の効率化や競争力向上は難しくなります。しかしながら、従来の改善活動では、生産活動の方が優先され、物流の方は後回しにされてきたという歴史があります。長い間、物流業務は単純労働と見なされ、専門性の高い仕事とされてきませんでした。そのため、優秀な人材が物流業務に配属されず、改善活動も十分に行われてこなかったと考えられます。

物流デジタル戦略は、デジタル技術を活用して物流プロセス全体を革新し、効率化、最適化、そして付加価値化を実現するための戦略です。競争優位性を獲得し、成長を加速するための重要な鍵となります。製造業において、物流デジタル戦略の重要性が高まる一方で、その推進において、いくつかの誤ったパラダイムが蔓延しており、それが企業の成長を妨げる要因となっています。本稿では、物流デジタル戦略を成功に導くために、4つの誤ったパラダイムについて解説し、真実を明らかにします。

2024年4月21日  執筆:東 聖也(ひがし まさや)

<目次>

1.誤ったパラダイムが引き起こす大きな問題

2.一度蔓延ると抜け出せないパラダイムの闇

3.物流デジタル戦略における4つの誤ったパラダイム

4.物流デジタル戦略の真髄


1.誤ったパラダイムが引き起こす大きな問題

「パラダイム」とは、考え方や見方、モデル、枠組みといった意味を持ちます。よく古いパラダイムから新しいパラダイムへの転換を「パラダイムシフト」として、革命を指す言葉として使われます。科学哲学者であるトーマス・クーンによって提唱された概念で、「ある時代や分野において支配的な考え方や枠組み」を意味します。ちなみに、科学史におけるもっとも偉大で有名なパラダイムは、「地動説 vs 天動説」でしょう。

製造業の歴史において、誤ったパラダイムが大きな問題を引き起こした例は数多くあります。その中でも「大量生産主義(Mass Production)」は、製造業における重要なパラダイムの一つでしょう。同じ製品を大量に生産し、一貫した工程と標準化された部品を用いて効率的に生産することで、低コストを実現しつつ、国民の生活水準を向上させることに貢献しました。ヘンリー・フォードが自動車産業で最初に採用した手法の一つでもあり、「フォード方式」または「フォードリズム」とも呼ばれます。

しかし、大量生産主義は様々な問題を引き起こしました。大量生産には大量の資源とエネルギーが必要となり、環境破壊が深刻化し、労働者は長時間労働や劣悪な労働環境に苦しめられました。また、大量生産された製品は画一化し、多様化する消費者のニーズに十分に応えられなくなりました。一度構築された生産ラインは変更が難しく、市場の需要の変化に対応することが難しくなったのです。

 

2.一度蔓延ると抜け出せないパラダイムの闇

TOCの生みの親であるゴールドラット博士は、大量生産によるコスト削減の手法を「お金を作ることから遠ざかる行為」と否定しました。作れば売れる「大量消費時代」であれば問題なかったのでしょうが、需要が減り、売上も増えていないのに、製造原価を下げるために増産して売れない在庫を増やしても、キャッシュフローが悪化するだけです。

だったら「需要が減った分、生産の量を減らせば良いじゃないか」と思われるかもしれませんが、ここがパラダイムの恐ろしいところ。企業の隅々まで蔓延したパラダイムによって、生産性、製造原価、収益率など企業の様々な指標が定められています。そしてこうした指標が各部門や担当者の評価に連動しているため、企業の隅々まで「大量生産主義」が根を張っているのです。どんなに国民が貧困化しても、我が国の財務省が「財政均衡主義」から抜け出せない構図とよく似ていますね。。。


3.物流デジタル戦略における4つの誤ったパラダイム

パラダイムについて理解を深めて頂いたところで、製造業の物流デジタル戦略において、私が危惧するいくつかの誤ったパラダイムについてご紹介しましょう。

パライダイムその1. デジタル技術万能主義

デジタル技術は物流プロセスを効率化し、最適化する強力なツールですが、決して万能ではありません。デジタル技術を導入すれば、自動的に物流が改善されるという考え方は誤りです。私たちは倉庫管理システム(WMS)や在庫管理システム(IMS)を汎用的なパッケージとしてユーザー企業に提供していますが、システムを導入すれば、ユーザー企業の物流が効率化、最適化されるかと言えばそんなことはありません。WMSを販売する私の立場からすれば、「WMSを導入すれば長年の腰痛が治ります!」と言いたいところですが、それは薬事法に引っかかってしまいます。

デジタル技術を効果的に活用するためには、まず物流プロセスの現状を分析し、問題から課題を特定する必要があります。その上で、課題解決に最適な対策を練り、そこにデジタル技術を充てることで、適切に導入することが可能になります。腰痛でもストレスからくるものもあれば、姿勢の悪さからくるものもあります。問題によって、対策が違えば処方する薬が変わるのも当然ですね。

パライダイムその2. 短期的成果主義

物流デジタル戦略は、長期的な取り組みです。短期的な成果ばかりに固執すると、本来の目的を達成できなくなります。たしかに、現代はスピード経営の時代です。より短い時間で、より多くの成果を生み出すことが求められます。どのようにすれば、早く、安く、確実に質の高い物流ができ、ライバルを凌駕できるのか。そうした姿勢が求められることも事実です。しかし、物流デジタル戦略を推進するには、経営層と現場が一体となって、長期的な視点で取り組むことが重要です。問題には、大きく3つの問題があります。それは、「過去の問題」「現状の問題」「未来の問題」です。短期的な成果ばかりを求めると、「現状の問題」に対しては手を打てますが、「過去の問題」と「未来の問題」に対してアプローチできなくなります。問題解決は、時系列的に過去、現在、未来にパターン化して長期的な視点で取り組むことで、大きな果実を手にすることができるのです。こちらについては、過去の記事「デジタル技術が生み出すスピード経営 ~問題から機能を設計する~」で詳しく解説していますので、合わせてご参考下さい。
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パライダイムその3. ベンダー万能主義

物流環境は常に変化しており、それに対応するためには、物流デジタル戦略も柔軟に変化させる必要があります。しかし、ベンダーに仕様だけ丸投げして依存していると、システムの変更や機能追加に時間がかかり、変化に対応することが難しくなります。物流デジタル戦略を推進するためには、ITツールやシステムだけでなく、物流業務に関する自社のノウハウも重要です。しかし、ベンダーに全てを任せてしまうと、自社のノウハウが蓄積されず、物流業務の改善やイノベーションに支障をきたす可能性があります。完全自前主義で行う必要はありませんが、ベンダーとOneTeam(一つのチーム)になって、一緒にシステムをデザインし、一緒に作り、一緒にメンテナンス・改善していけるような体制を早期に構築しましょう。

パライダイムその4. 現場主義

ものづくりの現場においては、物流データの重要性を過小評価してしまう傾向があります。物流デジタル戦略において、物流領域のデータは重要な役割を果たします。
しかし、実際にはデータよりも現場の経験や勘を重視する「現場主義」が蔓延っています。「現場主義」というと聞こえは良いのですが、一歩間違うとデータ軽視に向かいます。「経験と勘」vs「データ」のパラダイムですが、どちらが良くてどちらが悪いといったことではないのです。それぞれを上手く融合して活用することが大事です。「現場主義」のパラダイムが蔓延すると、過去の成功体験に固執し、新しいデータに基づいた改善を拒むことがあります。「現場主義」はデータに基づいた意思決定がされず、決定が遅れ迅速な対応が出来なくなります。私たちがミッションに掲げている「データドリブン物流」とは、データをアクションに変える物流と言い換えることができます。属人化された意思決定プロセスを形式知化し、データ分析によって実行(アクション)することが求められます。
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4.物流デジタル戦略の真髄

物流デジタル戦略は、単なるITツールの導入ではありません。物流プロセス全体を体系的に変革し、ビジネスの目標達成に貢献するものです。誤ったパラダイムに惑わされず、真の物流デジタル戦略を推進することで、企業は競争優位性を獲得し、成長を加速することができます。真の物流デジタル戦略を成功させるためには、以下の3つのポイントが重要です。

1.長期的な視点:短期的な成果ばかりに固執せず、長期的な視点で取り組むことが重要です。
2.課題解決型アプローチ: 物流プロセスの現状を分析し、問題から課題を特定する必要があります。
3.データドリブン物流:データを活用して物流プロセスを分析、改善、最適化することが重要です。

物流デジタル化は、製造業の未来を大きく変える可能性を秘めています。本稿が真の変革を成し遂げる一助となり、企業の飛躍を支えるための羅針盤となれば幸せです。

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