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米国百貨店トップのメイシーズ(ニューヨーク、ジェフリー・ジェネットCEO)の、2023年1月期の第4四半期および通期決算を見てみましょう。
売上高は82億6400万ドルで、前年同期比で4.6%減少しています。営業利益は6億7600万ドルで、前年同期比33.4%減少、純利益は5億0800万ドルで、前年同期比で31.5%減少、既存店の売上高は直営店で3.3%減少し、直営店とライセンス店を合わせた売上高も2.7%減少、EC販売も9%の減少でした。一方、年間売上高は244億4200万ドルで前年比0.1%減、営業利益は17億3000万ドルで26.4%減、純利益は11億7700万ドルで17.7%減で、通期でも減収減益の結果となっています。
これは、競争の激化や消費者の買い物傾向の変化など、さまざまな要因によるものと考えられます。同社は戦略的な在庫管理やEC販売の拡大に注力し、
顧客の需要に応える体制を強化していく予定です。本稿では、需要低迷で苦戦するメイシーズの生き残りを懸けた在庫戦略について迫ります。
執筆:東 聖也(ひがし まさや)
<目次>
1.在庫生産性の向上に生き残りを懸ける
メイシーズの最高財務責任者(CFO)エイドリアン・ミッチェル氏は2023年3月、アナリストとの電話会談で、メイシーズの「価値創造の手段」として在庫生産性について語りました。「データによる分析を活用して、販売需要、商品受け取りのタイミング、サプライチェーン全体の流れをより正確に予測することで大きな進歩を遂げました」と彼は説明しました。メイシーズでは在庫管理の強化により、在庫は7%減の46億ドルとなりました。同社は決算発表で、当四半期の売上高が減少したにもかかわらず、今年に入って在庫水準が低水準に達したことにより商品利益率を維持できたと胸を張ります。
エイドリアン・ミッチェル氏はアナリストに対し、第2四半期の入庫のタイミング、量、構成を変更することで、下半期の在庫生産性は更に向上すると予想していると述べました。
データ活用による在庫生産性向上の取り組みにより、同社の在庫は削減され、売上減少による利益率の減少を最小限に抑えることに成功しています。しかし、
一方で、在庫戦略上のミスも発生しています。それについて、同社CEOのジェフ・ジェネット氏は、以下のように述べています。
「厳しい在庫規律を守っていたにもかかわらず、第1四半期には在庫ミスを犯しました。品揃えを温暖な気候向けの商品に転換するのが早すぎたため、米国全土の長期にわたる低温期間中に売上を失ってしまいました。」
昨年はパンデミックによる需要低迷で、多くの小売業者が在庫過剰に苦しみました。そんな中、メイシーズは比較的在庫水準を適正に保つことができました。
ジェネット氏は、経済的な不確実性が迫る中、2023年もその戦略を堅持することについて以下のように語っています。
「我々は消費需要の悪化が3月中旬から始まっていると予測していました。マクロ的な逆風が続いており、さらに悪化する可能性があるため、今年の見通しを引き下げ、事業計画を調整しました。今のところ、顧客は依然として自分たちの予測に近いものを購入しています。需要が改善すれば、昨年の水準を上回る豊富な在庫受入引当金を活用し、需要に合わせて強みのある分野を追求する予定です」
同社のデータ分析による在庫戦略に対する自信が伺えますね。
2.自動価格設定ソリューションを開発
メイシーズはデジタルによるアジリティ(機敏性)の獲得についても取り組みを進めています。第2四半期の初めから自動価格設定ソリューションを自社の在庫管理に組み込んだのです。この自動価格設定ソリューションは、在庫を迅速かつ可能な限り利益が最大となるように販売できる意思決定支援ツールです。商品カテゴリー毎に在庫回転率を最大化し、販売数と利益(販売マージン)を最大化することが可能になりました。競争環境や需要の変動を迅速に反映し、最適な価格を設定するために使用されています。
データ分析とアルゴリズムを組み合わせて商品価格を最適化するように開発されています。競合他社の価格、在庫状況、需要のトレンド、販売目標などの情報を考慮し、商品ごとに最適な価格を自動的に計算します。このソリューションは、効率的かつ迅速な価格設定を実現するだけでなく、競争力のある市場での収益最大化もサポートします。価格設定の最適化により、需要と利益のバランスを達成し、顧客の購買意欲を高めることができます。
自動価格設定ソリューションは、メイシーズの在庫戦略において重要なツールとなっています。価格変更を迅速に行い、競合他社に対して優位性を持った価格戦略を展開することができます。また、需要の予測やセグメンテーションに基づいた価格設定も可能です。競争激化する小売業界において、効果的な価格戦略の策定と実行を支援する重要なツールです。
3.設備投資予算の3分の2以上をデータ分析に投資
過剰在庫は長年にわたり百貨店業界の悩みの種となっていました。百貨店は長年に渡って、販売能力以上の商品を購入し、超過分を割り引いて利益を犠牲にしてきたのです。 メイシーズも、業界全体がインフレ圧力の高まりを受けたこともあり、消費者が買わない商品を大量に抱えていました。 ジェフ・ジェネット氏は決算会見で「2022年を振り返ると、消費者の購買意欲の低迷と、需要の変化の兆しが第1四半期後半から見え始めた」と述べています。
消費者にとっての経済的課題は年間を通じて解消されず、メイシーズはそれに応じて在庫を調整しました。価格を計算し、販売需要を予測するために、データと分析にさらに投資するようになりました。メイシーズの昨年の設備投資13億ドルのうち3分の2以上がデータ分析やその他のサプライチェーン近代化プロジェクトに充てられたというから驚きです。 メイシーズは2023年に、自動化を改善し、より柔軟な在庫配分を推進する取り組みなど、さらに「より高度な在庫生産性の取り組み」を予定しています。メイシーズの在庫戦略は、今後も同業他社をリードすることになることは間違いなさそうです。