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<目次>
1.”業務支援型”から脱却し、”経営支援型”のシステムへ
これからの物流情報システムの設計において大切なことは、システムに盛り込むべき差別化戦略を、トップがビジョンの形で明示し、これを具現化するシステムの構築をすべきであることです。新しいロジスティクス競争時代に向けて経営トップが目指すべきは、”業務支援型”の物流システムからの脱却であり、”経営支援型”の物流システムの構築です。”経営支援型”の物流システムとは、”間断なきROIの向上”にあり、これを他社よりも戦略的に差別化して実現するのです。
そのビジョンの例としては、「”意思”と”時間”を持った物流システムの実現」や「”アジリティ”の獲得を支援する経営支援型物流システム」といった具合です。「業務を効率化して物流コストを削減するためにWMSを導入する」というのでは、あまりに芸がありません。何故なら、他社と差別化されたビジョンではないからです。例えば自社が子供服を扱うアパレルであれば、子供服を購入するユーザーの体験をイメージし、そこから他社と差別化するためにどのような物流を実現するかを明示するのです。子供服を主に購入するのは母親です。昼間は家計を支えるためにパートに出て、夕方からは夕食の準備や洗濯などに追われているかもしれません。核家族化が当たり前となった日本では、母親の睡眠時間は世界的にみても短いそうです。しかし、そんな時間のない母親も、自分の子供には良い服を着せたいというのも親心です。
品揃えは、母親の”意思”を代替して、豊富な商品知識をもって母親の欲しい商品を品揃えして、しかも”時間”を大切にする母親を支援できるような配送方法をビジョンで表現します。時間のない母親が簡単に自分の子供に似あう服を購入できて、欲しいと思ったタイミングで簡単に商品を受け取ることができるような物流システム。それが「”意思”と”時間”を持った物流システムの実現」ということになります。
そのビジョンを骨格として、社員と一緒にどのような機能やサービスが物流システムに必要なのかを検討していくのです。これまでの情報システムは”業務支援型”であったので、このようなビジョンがなくても、投資対効果を期待できました。しかし、今はデジタル化社会です。デジタルとビジネスを融合し、DXを実現することで世界と生き残りをかけて競い合う時代です。情報システムが自社の経営と切り離されたものではなく、自社のビジョンを実現するためのDNAとして設計・構築されなければならないのではないでしょうか。
物流の分野は、まだまだこのような意思をもっていません。依頼されたものを集荷して配送しているだけになっています。このような”機能”としてだけの物流は、いつか沙汰されてしまうか、安く買い叩かれ便利に使われてお終いです。それだと日々現場で荷物と格闘している従業員が報われません。経営トップが自ら明確なビジョンを持ち、それを明示することで、経営支援型の物流システムを構築してもらいたいと思います。
3.ビジョンを機能に落とし込み、設計する
先の子供服のアパレル小売店が「”意思”と”時間”を持った物流システムの実現」をすることで、サービスが向上し、新たな顧客ができて売上が増大します。しかし、ここで問題が生じます。母親が欲しいと思う商品を欠品しないようにしっかりと品揃えをしないと、サービスが向上せず、ビジョンの実現ができません。しかし、それには在庫を沢山持つ必要があります。売上は増えたものの、在庫コストが増大して利益を圧迫してしまうようでは本末転倒です。これを解決するには、コスト視点を持ち、できるだけ在庫を少なくしてビジョンを実現する機能を持たせることを考えなければなりません。この対策なしには、物流システムのもう一方の目的である、ROIの向上による経営支援にはつながりません。
これを解決するには、物流システムに「母親のニーズをつかんで、母親の購買代理人機能を発揮して、売れる商品しか品揃えしない機能」を追加させることになります。このようにしてビジョンから必要な機能が生まれます。多くの発注担当者は、欠品を恐れて不良在庫の増大を招き、じりじりとROIを低下させてしまいます。これを防ぐには売れる商品だけの品揃えをすることですが、もう一つポイントがあります。それは、自社が在庫する商品に自信を持つことです。もし在庫していない商品のリクエストが顧客からあった場合には、それはトレンドが過ぎたから、そちらの商品よりもこちらの商品が良いと顧客を説得し、代替商品の提案ができるようにシステム化しておくことです。このような機能を持たせることで、顧客満足を向上させつつ、自社の在庫の回転率を向上させることができます。
下の図は、この機能をフローに整理したものです。
4.物流システムをリアセスメントする仕組み
この機能のシステムフローを見て頂ければ、”意思と時間をもった物流システムの実現”というビジョンが具現化されていくことが理解いただけると思います。このフローで注意が必要な点は、顧客が欲しい商品が欠品しており、代替品で提案したが顧客が納得せずに「客注品手配」をしなければならないという例外処理が発生した場合です。これは、物流システム内に何らかの欠陥があるものとして、その原因を追究したく策を講じる必要があります。
何故ならば「母親のニーズをつかんで、母親の購買代理人機能を発揮して、売れる商品しか品揃えしない機能」として上手く機能していないということになるからです。システム上の不具合(バグ)ではないので、問題はないというのが一般的な見方でしょう。しかし、ビジョンを実現するための機能として、その機能が役割を果たしていない場合、その原因を探って対策を講じることこそ「経営支援型」の物流システムの真骨頂と言えるでしょう。
多くの物流システムでは、システムの不具合(バグ)については早急に手が打たれるものの、ビジョンに対する機能不全については誰もが見向きもしません。これでは物流システムの”一貫性”が保たれなくなり、経営を支援するどころか、経営の足かせになってしまう可能性だってあるのです。当初に明示されたビジョンや機能の役割に対してシステムが正しく役割を果たしているかどうかをリアセスメント(再評価)する仕組みを持たせることで、一貫性が保たれた効果性の高い物流システムの構築・導入が可能になるのです。