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<目次>
1.コンポーネント・ソフト技術の発展
マイクロソフト社と、「Java」を開発したサン・マイクロシステムズ社による、業界を巻き込んだ開発競争がきっかけとなり、ソフトウェア技術のコンポーネント化(部品化)が始まりました。そこから一気にコンポーネント・ソフト技術は成熟化し、ソフトウェア開発の現場は一変しました。
ソフトウェアはプログラミング作業(開発作業)を支援する「開発ツール」で作成されます。今のように便利な開発ツールが無かった時代は、画面1つ表示するにも、プログラミングを勉強して、膨大な量のソースコードを書く必要がありました。
※ソースコード・・・人間が理解・記述しやすい言語やデータ形式を用いて書き記されたプログラムのこと。
このソースがマシン語に変換されることでプログラムが実行される。
現在ではフォームと呼ぶウインドウにソフトウェア部品(コンポーネント)を配置するという簡単な操作で、画面一つ表示するだけであれば、エクセルを使える程度の知識で誰でも作成可能になりました。しかし、ソフトウェア業界のコンポーネント化はここで停滞してしまいます。
クラウド技術が誕生し、業務システムの部品化やデータ処理の部品化が進むかに思われました。例えば、別々の会計システムと販売管理システムがクラウド上でAPI(Application Programming Interface)でシームレスに連携されるイメージです。または、ネット上から大量に流れてくる受注データを処理するコンポーネントと、在庫を引当して、出荷倉庫に指示を流すコンポーネントをAPIで連携して物流システムをスピーディに構築するといったようなことです。
2.進まないデータ処理のコンポーネント化と再利用
ところが、会計基準や法律で整備されているはずの財務会計ですら、会計パッケージによってAPIの仕様が異なります。そのため、WMSのパッケージ機能で在庫評価を行い、会計のパッケージ機能で貸借対照表を作成するというような場合でも、カスタマイズが発生してしまいます。APIによる連携は一般的にはなっていますが、標準化には程遠い状態です。各コンポーネント間でAPIのカスタマイズが発生しているため、結局、開発・テストが必要になるので、コンポーネント化による再利用、標準化が成熟化しているとは言えません。お恥ずかしい話ですが、弊社でもWMSパッケージを開発して、API連携を実現して標準化に挑戦していますが、
連携するERPによって都度カスタマイズが発生しているのが実状です。では、なぜソフトウェア業界のコンポーネント化は足踏みをしてしまったのでしょうか?
これは完全に私の個人的な意見ではありますが、こうしたコンポーネント化が思うように進まない原因はデータにあると考えられます。単一のソフトウェアを開発するコンポーネント化は冒頭で触れたようにあっという間に進展しました。画面を作成するのに、フォーム上にボタンやテキストボックスといった部品を配置する作業には、複雑なデータを連携させるという概念がありません。しかし、在庫のデータを処理するシステムと会計のデータを処理するシステムだと、扱うデータも増えるし、データの記録の方法(データベース設計)も異なるため、途端に部品同士を結合するという作業が困難になります。
つまり、業務システムやデータ処理のソフトウェアは必ずデータベースというデータの入れ物が用いられるため、そのデータベースのアーキテクチャが異なるので、連携する際にカスタマイズが必要になるのです。ベンダー各社は独自のインターフェース仕様に基づいてソフトウェアを開発していますが、このインターフェース仕様を共通化する動きをとっていかなくてはならないでしょう。この点についてはソフトウェア業界の今後の課題と言えるでしょう。
3.企業間の情報連携によるスピード経営
データ処理のコンポーネント化と同時に重要になるのが、企業間の情報連携の標準化です。企業間の情報連携がクイックになれば、生産性向上、納期短縮、顧客満足度の向上、在庫削減といった効果を得ることができます。多くの企業はEDI(電子データ交換)を導入して受発注情報ネットワークを構築しました。
しかし、販売や物流などの一部の効率化は達成できても、生産管理などの他の部分とは十分に連携しないので、サプライチェーン全体の最適化は未だ実現できていません。
サプライチェーン・マネジメントにおける情報連携の標準化が難しいのは、受発注の合理化レベルから一歩踏み込んで、全体最適化に向けた意思決定支援に貢献しなければならない点です。EDIは事務処理の自動化を目的に利用されます。しかし、デジタル技術を事務処理の自動化だけを目的に利用するのはあまりにもったいないです。経営資源の稼働率を上げて売上を増大させたり、在庫や経費を削減して利益を増やすことで、ROI(ROE)を向上させるためにこそデジタル技術を使うべきです。
これまでの経営においては、ヒト、モノ、カネが経営資源と言われてきました。この3つの経営資源は、経営を遂行するために不可欠な経営資源で、その動きがわかりやすいので「目に見える経営資源」ということができます。これに比べて、情報は「目に見えない経営資源」です。これは企業が成長する上で、必要不可欠な4つ目の経営資源であることを、経営者はよく理解しなければなりません。顧客の支持を得るための競争力の真の源泉になるのが、
情報の経営資源です。それは戦略的に見ても最大の経営資源であり、この情報の経営資源はお金で買うことはできません。またその蓄積には相当な時間がかかります。つまり、この見えない経営資源は経営者が自分でつくり、時間をかけて蓄積するしか、手に入れる方法がありません。そのため、いったん蓄積してしまえば、これは競争相手との大きな差別化の源泉になるのです。お金で買える経営資源は、競争相手もすぐに手に入れることができるので差別化の源泉にはなりません。
現在のビジネス環境は顧客ニーズの多様化・高度化が進み、競争の激化、技術革新のスピード化により、他企業とのコラボレーションに頼らざるを得ない状況です。また企業間取引もインターネット取引に移行が進むことなどから、従来のEDIのような企業間ネットワークではなく、新しい取引先との間で安価かつ、用意に互いが蓄積した情報を連携でき、すべての関係者がリアルタイムに情報を共有する仕組みの構築を急がなければならないのです。