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<目次>
1.共同物流はシステム思考で組み立てる
共同物流を実現するには、「システム化」が不可欠です。ここで言うシステム化というのは、ITを活用した物流情報システム構築などの狭義なものではなく、自動的に目的を達成するために、決められた手順で業務を進める仕組みづくりのことです。
共同物流の目的は、複数の荷主の荷物を決められた手順で遂行することによって、自動的に飛躍的に効率化を達成するシステム化にあります。
しかし、物流を取り巻く環境は非常に複雑なので、共同物流をシステム化するには様々な課題や困難が待ち受けています。このような課題を把握し、解決に導くための思考法として、「システム思考」が役に立ちます。このシステム思考を用いることで、広い視野で物流システム(構造)を紐解き、共同物流をシステム化する際の”課題”をスムーズに解決できるようになります。
課題というのは、「現状と目標の差」と定義することができます(下図)。したがって、目標なく仕事をしている人には、課題が見えません。
課題意識の無い人には、そもそも課題が見えないのです。では、課題意識のない人に問題があるのでしょうか?それは違います。目標を明確に定義していないトップに問題があります。何から手をつけてよいか分からない、具体的にどのようなアクションをとればよいか分からないといのは、「システム思考」の欠如によるものです。「システム思考」を専門で学んでいなくても、育ってきた環境や仕事によって、無意識のうちにシステム思考できるようになる人も多くいます。システムエンジニア(SE)や、モノづくりに携わる人にはシステム思考ができる人が多いように思います。
システム思考は複雑な物事を構造的に理解するために役立ち、本質的な問題の把握や、中長期的な視点に立った戦略立案を行うことができます。
システム思考を簡単に習得するツールとして、MIT教授たちによって開発された「ビールゲーム」が有名です。ゲームは1チーム4人で構成し、ビール工場、一次卸、二次卸、小売店のそれぞれの役割に分かれます。ゲームの目的は、チーム全員の利益を合計し、他のチームよりも利益を多くあげることです。ビールはビール工場で製造されて、一次卸→二次卸→小売店の順で流れていきます。小売店はビールの在庫が減ると二次卸に発注を行います。二次卸は発注に対して出荷を行い、在庫が減ると一次卸に発注します。
自分の取った行動が、他の誰かにどのような影響を与えるのか。例えば、小売店が大量の発注を行えば、二次卸の在庫が無くなり、一次卸、工場へとその影響は拡大します。このようにゲームの中では実際のサプライチェーンで繰り広げられる受注側と発注側の様々な視点で課題を見ることが求められます。
2.情報、伝達、制御の3つに分けて設計する
物流をシステム思考的に捉えると、「情報(データ)」と「情報の伝達(コミュニケーション)」と「ヒト・モノ・カネの制御(コントロール)」の3つの概念によって整理することができます。共同物流を組み立てる場合、データ、コミュニケーション、コントロールの3つの概念の組み合わせで考えていくことをお勧めします。物流を構成しているこの3つの部分と全体、あるいは部分間の相互作用の構造に是非注目してみてください。これまで見えなかったアプローチが生まれることに気付くと思います。システム思考でこの3つに分けて考えることで、物流をシステム的(全体的)に部分と全体の結合として把握・理解することができるようになります。
そして、ここで重要なのは”相互作用”という考え方です。単に物理的な相互作用ではなく、情報(データ)による相互作用がとても重要です。目的を達成するためにシステムに入出力される情報は、目的に対する手段の関係とイコールであるということです。これだけだとよく理解できませんね。。。
例えば商品を出荷することがシステムの目的であるとすれば、出荷指示データが入力され、現場にピッキングリストが出力されなければなりません。
何故ならピッキングリストによりヒトがモノを正しく出荷することが目的達成の手段だからですね。「なんだ、そんなの当たり前のことじゃないか!」といつものように叱られそうですが、、、ここはとても重要なところです。つまり、システムに入出力されるデータは、目的達成のために情報の伝達がなされ、
ヒト・モノ・カネの制御を行うように設計しなければならないということです。逆に言えば、システムの目的に対する手段に影響しないデータもコミュニケーションもコントロールも一切不要だということになりますね。
共同物流をシステム化するには、その目的をはっきりと明確にし、そのための手段をシステム思考でこの3つに分類し、目的に対する手段に影響するものは何か、その手段を阻害する要因はなんなのか、そのためにどのような情報を伝達し、ヒト・モノ・カネを制御すればよいのか。このようなアプローチで設計(デザイン)することによって、実に具体的で効果性の高いアクションを導き出すことができるようになるのです。
※あのAmazonの創業者、ジェフ・ベゾスもこの思考法を活用して自社のビジネスモデルを考案したのは有名な話です。
3.トヨタのジャスト・イン・タイムのように
物流構造(システム)は、調達物流と販売物流の連鎖によって成立しています。共同物流をシステム化するには、複雑なシステムを単純化して、基本に立ちかえって、根本的にリエンジニアリングすることが求められます。共同物流は、物流の理想形の構築であり、創造です。劇的な効率化を成し遂げることによってグリーン・ロジスティクスに挑戦するのです。かつて、世界のトヨタは、ジャスト・イン・タイムという、トップダウンのビジョンに基づく理想システムの創造を成し遂げました。共同物流による理想形の実現は、システム思考に基づく「トップダウン」のビジョンと、それに基づくシステム化が不可欠です。当然ですが、トップダウンのマクロ(巨視的)な問題解決と、ボトムアップのミクロ(微視的)な問題解決・改善という両方の視点から攻めることが必要であることは言うまでもありません。
“システム化思考”によって、共同物流の目的に対する最適な手段を探索することによって、効果性の高い物流リエンジニアリングを実現して頂きたいと思います。