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<目次>
1.共同物流の本質と優位点とは?
本稿のタイトルに含まれている「グリーン・ロジスティクス」とは、地球にやさしい物流を実行することです。物流・ロジスティクスの分野で、いまや最大の問題は「環境問題」でしょう。物流は長い間、効率化を重視するには環境破壊もある程度止むを得ないという甘い認識で地球にやさしくない運用がされてきました。消費者への商品供給において物流費を極限まで節減することが求められ、原料調達から消費者に至るまでの過程を一貫させて販売戦略上の優位を確保することがミッションでした。グリーン・ロジスティクスにおいては、そのようなレベルを超脱することが求められます。
経済活動の本質は、地球上の有限な資源を人類の生活や文化にとって有用な財に変換することです。であるならば、ロジスティクス本来の役割は、それら有用な財を人類にとってもっとも良い方法で循環させることではないでしょうか。だからこそ、物流に携わる全ての人が地球にやさしい方法で循環させる方法を追求しなければなりません。
この持続可能性の高いグリーン・ロジスティクスを構築する方法を模索するにあたって、従来のマーケティング理論や経済学的理論では不十分です。
物流合理化の有効手段として以前から注目されている方法が「共同物流」です。国もグリーン・ロジスティクス実現の有効手段として推奨しているし、過去に多くの試行例もあります。ところが成功を持続させている事例は少数です。それは何故でしょうか?「参加企業の商習慣の違い」「主導者として適格がいない」「費用負担や利益配分の公平なルールの確立が困難」などがこれまで一般論として説明されてきました。たしかに、どれもが理由として間違ってはいないと思います。しかし本当の理由はもっと根深いところに潜んでいるのではないかと筆者は思うのです。その答えのヒントをシステム理論に見つけることができます。
システム理論では、システムを構成する要素(部分,成分)は互いに関連し,なんらかの機能を果たしていることを前提としています。そして、「システムの機能は,それぞれの要素の機能の総和以上のものとなる」というのが根本思想です。つまり、共同物流の本質と優位点はシステム化にあるのであり、単に各社の荷物を寄せ集めて規模の利益を上げることではないということを理解することがとても重要になります。「何を難しいことを言っているんだ」とお叱りを受けそうなので、本章では共同物流のアーキテクチャを分析することで、もう少し皆さんにも分かり易くこの点について解説したいと思います。
2.システムズ・アプローチの重要性
本章の目的は、共同物流をシステム化(要素と要素が連結して組織化)の観点に立って構築することで、はじめてグリーン・ロジスティクスへの展望が開けてくるということを物流に携わる多くの方に少しでも知ってもらうことです。ここで私たちが問い直さなければならない問題が「システムとは何か?」という問いかけです。システムの根本思想である「全体 >= 部分の総和」について、自動車に例えてみましょう。自動車は何万という部品から構成されています。
この部品を集めて山を作ってもそれは自動車ではありません。ただの部品の山です。部品にはそれぞれ機能(役割)があります。エンジンは「馬力を生む」、タイヤは「転がる」、シャーシーは「車体を支える」などです。しかし、自動車の「自力で走行できる」という機能は、個々の部品の諸機能に比べるとはるかに上位であり高次の機能です。このようにただ単純に多数の要素が集まっているだけではシステムではありません。共同物流も同じで、各社が集まって荷物を集約したところでそれは荷物の山でしかなく、システムとして機能しなければ優位点は生み出せないのです。システム理論では、システムには2つの力が働くと説明されています。システム理論の用語で説明すると難しくなりますので、ここでは共同物流を例に説明します。1つは自社と同じやり方を他社にも確立しようとする求心力、もう1つは自社のやり方を他社のやり方に統合させようとする遠心力です。システムに内在するこの2つの力を利用できる点が共同物流の最大のメリットです。
複数の独立した企業がグリーン・ロジスティクス達成のため、緊密に協力し合う意思決定をするビジネス関係を築くことが出来ます。共同物流をシステム化する際の要点として、
1.短期的思考ではなく、長期的思考に立脚する
2.信頼関係の構築をベースとする
3.戦略的提携を原則とし、相互利益を原則とする
が挙げられます。そしてこれを進める手段として、
1.機能分担
2.情報の共有
3.製品やサービスの共同開発
があります。そして最も重要な点は意思決定に当たってはシステムズ・アプローチをとるということです。ロジスティクスの問題には様々な矛盾衝突が一般的です。また、構成する各部門や企業の間で利害の衝突がおこります。そこで、部分の効果だけで意思決定をしてはなりません。システム全体で効果を判断することが重要です。これはまさしく、システム的な考え方「諸部分から成り立つ全体」概念の延長線上にあるものです。
3.共同物流はなぜ単独物流よりもすぐれているのか?
共同物流は古くて新しい問題です。歴史を遡ってみると、1969年7月、産業構造審議会の流通部会は「流通活動のシステム化について」という報告書を発表しています。この報告書に、流通活動のシステム化の基本構造という表が掲載されていますが、それを見ると共同配送や共同物流ネットワークを表していることがわかります。しかし、それから50年以上経ちますが、多くのトライアルがあったにもかかわらず成功例は少ないです。これについては先に述べました通り、共同物流というものを、単に複数企業が集まって行う団体活動と安易に考えているためであると考えます。複数の企業が集まれば荷物の量は増えます。したがって積載効率も上昇するし、輸送のトリップ数も減少するし、CO2の削減も可能になります。しかし、これらのメリットを単に大勢集まれば達成できると考えてスタートしたとすると、それはいわば、「まとめて買えば安くなる」式の規模の利益追求型の発想の域を出ません。もちろん、ここで規模の利益について否定するつもりはありません。ただその発想だけでは、グリーン・ロジスティクスを実現することはこの先も期待できないということをお伝えしたいのです。
世界の物流をめぐる環境は、今後ますます制約が厳しくなっていきます。より複雑性を増していく課題に対して、単独物流で真正面からぶつかって勝負したいと考えるのであればそれはそれでありかもしれませんが、やはり最新鋭のシステム理論を用いた共同物流で活路を見出す方が賢明でしょう。
本章の最後に「共同物流はなぜ単独物流よりもすぐれているのか」という質問に対して、システム理論を用いて筆者なりに解答してみたいと思います。
企業活動というのは、ただ単に自社だけが存在しているという唯我独存ではなくて、自社ではない他社や環境に関する情報をいかに多く取り入れて自社をそのシステムの中に参入させて、存在意義(役割)を明確にしていくかということになります。企業活動を行い、経過を観察し、結果を反省します。おそらく私たちはこのような反省を何度も何度も繰り返しながら企業活動を進めています。これがシステム理論で「自己観察」「再帰」といわれるものです。
このようにシステムの中で環境適応的に自社を観察し再帰させることによって、自社の優位点を確立することができて、存在し続けることができるのです。共同物流は、システムの中に自社を組み込み自己再帰を図ることで、部分としての役割を明確化し、全体として高い次元で地球環境に優しい物流を実現することにこそ、取り組むべき尊大な意義があるのです。