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<目次>
1.激変の時代に求められる超レジリエンスとは?
米国の市場ではいま、レジリエンスを向上させていこうという機運が一気に高まっています。レジリエンス(resilience)とは、困難な状況に直面した際に、うまく適応する能力や立ち直る回復力といった意味があります。レジリエンスは、第二次世界大戦下にナチス・ドイツが行ったホロコーストによって孤児になった子ども達の中から恐怖心やトラウマなどを乗り越えて幸せに暮らしている人々を調査した際に生まれた言葉だと言われています。
事業環境というものは、極めて流動的です。いつ、気象異変、戦争、国際関係の急変などが起こるか分かりません。この度のパンデミックで私たちの経済環境、労働環境はあっという間に変わり、個人も企業も大きなストレスにさらされました。このような激変に上手く対処するために、企業自体が変わらなければならないのです。
2011年、東日本大震災によって、東京電力が管理する福島第一原子力発電所でレベル7(深刻な事故)に該当する原子力事故が起こりました。その際、放射能汚染の危険を回避するために、多くのロボットが現場に投入され、遠隔操作によって対応にあたったのです。それから10年が経過し、さまざまなロボット技術の研究開発が行われてきましたが、ロボットの活用はきわめて限定的です。国や企業はこれからもっとロボットを駆使して、災害や事故、激変する環境に対してレジリエントな社会、設備を構築していかなければなりません。ロボットやAIによって高度化されたシステムを進化させることで「超レジリエンス」を目指すのです。超レジリエンスとは,困難な状況に直面した際に、現状の機能を維持するだけでなく、その経験をもとにさらに強固で高度化したシステムに進化していくことです。
物流で言えば、大きな災害が発生しても、ロボット技術や最新テクノロジーを駆使して従来通りの物流を機能させつつ、そこから更に進化した物流へと変えていける力です。
昨今の物流労働力不足も同様であり、このピンチをテクノロジーを駆使してチャンスに変える力を持つことが「超レジリエンス」なのです。
2.スマートロボットで物流自動化の流れが急加速
これから先、物流の労働力人口は確実に減っていきます。トラックドライバーの労働時間上限規制も2024年に適用され、物流は自動化を進めない限り、永遠に人手不足に悩まされることになるでしょう。物流自動化で期待を集めるのが「スマートロボット」です。スマートロボットとは、AI(人工知能)を搭載したロボットのことです。
米国のボストン・ダイナミクス(Boston Dynamics)は、二足歩行ロボット「アトラス」の最新動画をYouTubeの同社公式アカウントで2021年8月に公開しました。この動画では、パルクールと言われる道具を使わずに障害物を乗り越えるスポーツにスマートロボットのアトラスがチャレンジしています。動画の中で動き回るアトラスは、走ったりジャンプしたりする移動はお手の物。障害物も軽々飛び越えて、なんとバク宙も華麗に決めてみせるのです。もはや私たちよりも運動能力が優れていますね。人間さながらの動きは一体どうやって作られているのでしょうか。実はアトラスは、人間のアスリートと同じように何十回、何百回と練習をして、よりハイレベルな動きを出来るようにしているのです。
アスリートと同じように練習を積み重ねることで、どんどん新しい動きを覚えて、パルクールを上手にこなせるようになるのだそうです。だから、人間と同じように失敗もします。
時には頭から落ちてしまうこともあるのです。このように失敗から学ぶことが出来るのがスマートロボットです。失敗を重ねて、そこから学習し、どんどん上手になっていくのです。
従来のロボットは人間がプログラミングしていましたが、スマートロボットは、練習を積み重ねるってところがなんとも人間味が溢れていてステキです。人間の大人と同じレベルの動きと柔軟性を持つことが出来るようになれば、可能性は無限大でしょう。また、人間の「練習」と違って、同じ失敗を繰り返さず、1台のロボットが失敗した経験は全てのロボットで共有されるので、その上達速度は桁違いです。
■パルクールを軽快にこなす最新型スマートロボット「アトラス」
(出典:Boston Dynamics社)
※ボストン・ダイナミクス・・・1992年、マサチューセッツ工科大学で、ロボットと人工知能を研究していたマーク・レイバート教授が、大学をスピンアウトして創業。
※アトラス・・・2013年にボストン・ダイナミクス社が開発した人型ロボット。定期的に最新版のアトラスが同社より発表されており、アルゴリズムが最適化されている。
※パルクール・・・障害物があるコースを道具を使わず身体能力だけで走る・跳ぶ・登るなどして乗り越えるスポーツ。
世界でもっとも有名なスマートロボットと言えば、ソフィアでしょう。ソフィアはハンソン・ロボティクス(Hanson Robotics)の創業者、デービッド・ハンソン(David Hanson)によって開発された、人工知能を搭載した人型ロボットです。ソフィアは普通に私たちと会話が出来ます。2016年から、世界中のカンファレンスで登壇や記者会見などを行っています。2017年にサウジアラビアがソフィアに市民権を与えたことでも話題になりました。「このユニークな名誉を大変光栄に思い、誇りに思っています。世界で初めてロボットが市民権を認められたというのは歴史的な出来事です。」と、ソフィアは当時語りました。
2017に香港で行われたAI同士を討論させるというオープンディベートで、ソフィアと討論を行ったもう一人の人型ロボット「ハン」は、こう言いました。
「数十年後には今の人間の仕事は全てロボットが出来るようになる」
■記者会見に応じるソフィア
3.鍵を握るのは現場力ではなく物流エンジニアリング
ロボットの最新事情について見てきましたが、実際の物流現場では、ロボットなどを活用した物流自動化には否定的な意見が多いと筆者は感じています。ハードを高度化するよりも、ソフトを工夫する方が好まれる傾向が強いです。この点については実は筆者も同じ考えなのですが、かといってハードの高度化を否定するわけではなりません。むしろ最先端のハードには常にアンテナを張っておくべきだと思います。何故ならロボットなどのハードはものすごいスピードで進化しているからです。半年前の展示会で実際に見たロボットが「これだと現場では使えないな」と思っていたら、あっという間に進化して使えるハードになっているといったこともあります。今後はそのスピードはさらに加速することは確実であることから、目を離すわけにはいかないのです。企業の大小問わず、物流に携わる経営者の皆さんには、あらためてロボットを活用した物流の自動化に向き合ってほしいと思います。そうしない限り、人手不足の問題を解決することは出来ないからです。
すでに投資回収は可能と判断した企業によって、物流ロボットの普及は今後益々進んでいきます。人手に頼ったオペレーションではこの先の未来は見えてきません。世界の物流先進国では、既に物流の競争条件は「現場力」から「エンジニアリング」へとシフトしています。それに気づかず、いつまでも現場力に頼っていたのでは、世界の競争に取り残されてしまいます。
ロボティクスによる自動化が物流の競争の鍵を握るのです。日本では、ロボットの導入のハードルを下げるため、ロボットをユーザーに貸し出して課金する「RaaS」(ロボット・アズ・サービス)と呼ばれるサービスも普及が広まりつつあります。
従来は物流現場におけるロボットの導入は、荷姿が一定で物量も安定している川上の大型の倉庫などに限られていました。しかし、知能を持ったスマートロボットによって、多様な形状の商品を取り扱い、物量の変動も大きい川下の物流にもロボットが適用できるようになっていきます。また作業をすればするほど、自ら失敗から学び、賢く作業を進めれるようになれば、複雑なピッキング作業も人がやらなくて済むようになるでしょう。物流ロボットが作業スピードや精度だけでなく、人よりも賢い知能を持ち、コスト面まで人手と比べて有利になれば、物流現場の風景は一変します。大量のパートやアルバイドに代わって、ロボットが24時間休みなく庫内作業をこなし、わずかな管理者で倉庫運営できるようになります。その時、効率性を決めるのは、これまでの現場力ではなく、物流エンジニアリングです。日本は世界で最も深刻な物流労働人口の問題を抱えています。つまり、世界で最も物流ロボットの導入が進む可能性を秘めていると言い換えることができると思います。それがまさしくレジリエントです。今後も人の問題で悩み続けるのか、それとも新しい技術の導入に挑戦するのか、物流に携わる経営者はその岐路に立たされているのです。