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<目次>
1.倉庫管理システムと在庫管理システムの違い
倉庫管理システム(WMS)とは、「在庫管理機能」と「倉庫内作業管理機能」を統合したシステムの総称です。「倉庫管理システム
と在庫管理システムはどこが違うの?」とよく質問を頂きますが、倉庫内作業管理機能が有るか無いかの違いだと簡単に答える
ようにしています。
倉庫や流通センターでは、商品や物資の入出庫数量と在庫数量を在庫管理機能で確認します。在庫の保管位置(ロケーション)や
欠品させないための安全在庫や発注点を管理するのが在庫管理システムの役目です。
倉庫内で作業ミスを無くすために入荷検品、ピッキング、出荷検品を行いますが、こうした機能をシステムでサポートするのが
倉庫内作業管理機能になります。この機能では、こうした作業の効率化、品質向上、作業の見える化を可能にします。
この大きく二つの機能を持ったシステムが一般的に「倉庫管理システム」、英語で略して「WMS」と言われます。今回は加工組立型
の機械部品製造業に特化して、WMSの導入を失敗させないためのポイントについて解説します。
2.苦境に立たされる加工組立型製造業
2017年度の日本のGDPは約537兆円で、このうち、製造業が占めるGDPの割合は20%前後と言われています。
この数字だけを見ても日本経済は製造業で成り立っていると言っても過言ではありません。
一口に製造業と言っても、多くの種類に分類されますが、大きく分けると、「基礎素材型産業」「加工組立型産業」
「生活関連型産業」の3つに分類されます。ちなみに日商簿記検定で出題される問題では、素材型産業と加工組立型産業
の2つに分類されています。
材料そのものの形を変えるのが「基礎素材型産業」だとすると、「加工組立型産業」はパーツを組立して製品を作ります。
パソコンやスマフォや自動車などは加工組立型産業になります。
加工組立型産業は、世界の産業構造が大きく変わってしまった今、苦境に立たされています。「ものづくり大国ニッポン」として
世界から賞賛されていたのは、遠い昔の話になりつつあり、かつては世界市場で高い評価を得ていた日本製品も、製造コスト力の
ある新興国が市場参入し、高品質ではあっても高価格な日本製品は市場を奪われていきました。
日本製品の製造コストが海外と比較して競争力が弱い要因は大きく2つあると考えます。1つは少子高齢化による労働人口の減少
です。二つ目は日本のIT活用の遅れです。海外の製造業では企業の大小を問わずAIやIoTといった最新技術を積極的に取り入れて
います。それにより製造コストを抑え低価格且つ高品質な製品で市場を拡大しています。
またモノで儲ける時代が終わり、モノの製造・販売から、サービス事業で収益を上げるモデルへの転換が求められていますが、
この点でも日本企業は海外企業に遅れをとっています。「サービスタイゼーション」という言葉をご存知でしょうか?
IT化を進めることで人材不足を補い、サービスタイゼーションへとシフトする市場の変革に追従できるかどうかが今後の
加工組立型製造業の課題と言えるでしょう。
3.加工組立型製造業のWMS導入の目的
加工組立型製造業の物流サービスを考える上で、顧客の観点から重要な一つの指標があります。それは、オーダーからデリバリー
までの時間、オーダー・サイクルタイム(OCT)です。部品を調達し、加工、組み立てして納品を行うこの業界では、
ジャスト・イン・タイムが理想とされ、マーケットにおいてこの時間が重要な競争変数となっています。
加工組立型製造業においてWMSを導入する目的に、このOCTを短縮化するといった点が盛り込まれるのは当然と言えます。
ザラは、スペインのもっとも成功したアパレル・メーカーの一つです。ザラの急激な成長を支えたのは、在庫を持たずに
活動するということと、マーケットの需要にすばやくレスポンスするという2つの目標に基づいた独自の事業戦略でした。
ザラの生産システムは北イタリアのベネトンが開発したシステムをベースに、トヨタの生産管理のアイデアをプラスする
ことによって洗練され、この業界においてもっとも効率のよいクイック・レスポンス・システムを開発しました。
各サプライヤーとのEDI網の構築、オーダーから出荷指示までのスループットの向上、バーコードやRFID等の自動認識技術
を活用したリアルタイム情報の取得、物流倉庫、物流業者との出荷指示連携など、情報システムへの投資は膨大になります。
しかし、その回収も膨大であることは、こうした企業が証拠を示してくれています。
4.加工組立型製造業のWMSに求められる基本的な機能
加工組立型の製造業のWMSに求められる機能は多岐に渡りますが、ここでは特に重要だと思われる3つの機能について
ご紹介したいと思います。
1.生産管理システムとの連携機能
製造業には大きく4つの機能があり、それぞれの機能を支援するシステムが存在します。生産に必要な材料や部品を
調達するための購買発注システム、生産活動を管理する生産管理システム、工場、部品倉庫、製品倉庫の物流を管理
する倉庫管理システム、販売を管理する販売管理システムです。
この4つのシステムの中で製造業において最も重要になるのが生産管理システムです。WMSを導入する過程において、
生産管理システムとどのように連携を行っていくかという部分が非常に重要になります。
生産管理システムとの連携で気を付けなければいけないポイントはいくつかありますが、筆者の経験上最も重要だと考える
のは以下の3点です。
1.生産実績の計上はどちらのシステムで行うか
2.工程内の部品、仕掛品の在庫をどちらが主で管理するか
3.生産指示が変更になった際のWMSとの連携方法
1つ目の生産実績の計上については、一般的には生産管理システム側で行いますが、タブレットやハンディターミナル等の
携帯端末でリアルタイムに実績を計上する場合は、WMS側で実装する場合もあります。
2つ目は工程内の在庫をどちらが主管するかといった問題です。生産管理側は生産計画を立案する上で部品、仕掛品、製品
それぞれの在庫を管理しますが、場所の管理が得意でない場合が多いです。そのような場合は場所管理の得意なWMSが工程内
の在庫も管理する場合があります。
3つ目は生産管理システム側の生産指示が変更になった場合です。生産指示をベースに構成展開された部品をWMS側でピッキング
し、部品を工程内に投入しますが、この途中で指示数量が変更になった場合の処理を事前に決めておかなければなりません。
ここの設計で手を抜くと、いつまでたっても生産管理システムとWMSで在庫の整合が取れないといったことになってしまいます。
2.現品ラベル、カンバン発行機能
製造業では、カンバン、現品票といったラベルを部品、仕掛品、製品に貼り付けして管理します。こうしたラベルの発行が
様々なシーンで行われます。部品の受け入れ時、部品の小分け時、部品が組み立てられ半製品となって品番が変更になったとき、
製品が組みあがった時です。現品票やカンバンはその物が何であるかを示すとても大切な役割をしますので、貼り違いがあると
大きなクレーム、品質問題に発展してしまいます。
一般的に現品ラベルやカンバンは生産管理システム側で発行すると考えられていますが、筆者はWMS側で発行する方が良い
と考えます。なぜなら、貼り違いやミスを防ぐには物の動きと連動して発行することが求められるためです。物の動きと連動
してリアルタイムに処理することが得意なのは生産管理システムよりもWMSです。
いずれにしても、どこのタイミングでどのようなラベルが必要かをよく検討した上で、WMS上で発行する仕組みを設計しましょう。
3.VMI機能
この産業では伝統的に、顧客がサプライヤーに対してオーダーします。この仕組みは長い間常識となっていますが、固有の非効率
さが常に問題となっています。第1に、サプライヤーは事前に需要の情報を与えられません。彼らは顧客側の需要を予測すること
を余儀なくされ、結果として不必要な安全在庫を抱えることになります。
第2に、サプライヤーは毎日のように顧客側から予測にも計画にもなかった突然のオーダーを受けます。これは配送スケジュール
の変更等、見えない余分なコストを生み出します。
こうした課題を解決する方法としてVMIが出現しました。顧客はオーダーをせず、ベンダーと販売量や在庫量の情報を共有し、
サプライヤーは顧客側の在庫の補充に責任を持つという仕組みです。
※VMIの詳細については、以下の記事も参考下さい。
自社の物流を変えよう!『業界・業種別』物流改善のヒントとノウハウ ~製造業編④~
5.おわりに
トヨタ生産方式は徹底したムダの排除を製造業に求めました。ムダを排除することで生産性を高めるのです。多すぎる人、
過剰な在庫、過剰な設備、必要以上にあるものは製造原価を高める最大の要因です。さらにこのムダが原因となって、
二次的なムダが発生します。
そして製造業においてもっとも大きなムダは過剰在庫です。いまここに必要以上の在庫があったとします。これが工場に
入りきらない場合、倉庫を借りなければなりません。そしてその倉庫に運ばなければなりません。いったんその倉庫に在庫
されるや、何がいくつあるのか常に把握するために在庫管理部門を設置して、その為の人もシステムも用意しなければ
なりません。
正しい物流がなければ、製造業は儲かりません。生産のための部品や資材を工場に輸送するにも物流が必要だし、生産した
製品の出荷や市場への供給にも物流が必要です。OCTをいかに短縮化するかといった点を踏まえた上で、生産管理システム
との最適な連携方法を十分に検討し、導入を進めるのが加工組立型製造業のWMS導入のポイントと言えるでしょう。