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「中間流通である我々が文字通り積極的に間に立って、サプライチェーン全体の環境整備を進めていく必要がある」
全国の加工食品卸売企業で構成される日本加工食品卸売協会(日食協)の奥山則康専務理事が以前そのように力を込めて語っていました。
2016年10月より施行された改正物流総合効率化法を受けて、他の業界では複数事業者による共配の事例が急増しています。
物流総合効率化法の認定を受けることで、いくつかの国の支援制度を利用することができます。
1.営業倉庫に対する法人税、固定資産税等の免除
2.市街化調整区域に物流施設を建設する際の開発許可に関する配慮
3.モーダルシフト等の取り組みに対する計画策定経費や運行経費等の補助
物流総合効率化法の活用手順については以下の図をご参考下さい。
出典:国土交通省ホームページ「物流総合効率化法について」より
国内産業のサプライチェーンの中核を担う卸売業も、こうした動きに早急に対応していく必要があります。
卸独自のネットワーク・インフラを生かしたエリア配送の在り方を整理し共配を推進していくことがこれからの戦略となります。
今回は卸売企業が共同配送サービスを事業化する際に事前におさえておきたいポイントについて解説をします。
*** 顧客に提案する際の3つのポイントを整理 ***
共同配送をサービスとして事業化する為には、当然提案先の顧客に対してメリットをPRする必要が出てきます。
ただ闇雲に自社の営業担当者が顧客企業に「共同配送をすればコスト削減になりますよ」と提案しても、顧客は本気で検討をしてはくれません。
何度か顧客にアタックしたけど駄目だったと言ってあきらめている経営者も少なくありませんが、多くの場合顧客に上手にPRが出来ていません。
顧客にPRするポイントは「コスト」「品質」「店舗へのサービスレベル」の3点です。
何故この3点かというと、小売企業が最重要視している点だからです。それぞれのポイントについてもう少し詳しく説明します。
1.コスト
輸送コスト・センター運営コスト・作業コストについて提案を行います。現状とどのようにコストが変わるのかを整理します。
特に卸売企業側で小売企業が運営している物流センターの運営を行う事になる為、センター運営コストについては特に重要です。
2.品質
ピッキング精度、誤出荷率、温度管理、納品時刻遵守率について共同配送事業における品質を明確にします。
この辺りが上手く顧客側にPR出来ないと顧客も不安ばかりが先にきて提案が進みません。
3.店舗へのサービスレベル
SCMラベル利用によるノー検品・カテゴリー毎の仕分納品・通路毎の仕分納品により店舗内物流の支援をどこまで卸売企業側が
サポート出来るのかそのレベルを明確にしておく必要があります。
上記のようなポイントを自社で整理して、いかに顧客にPRするかを十分に検討する必要があります。
提案内容がアバウトだと、顧客側も良いとは分かっていてもなかなか踏み切ることが出来ません。
こうした案件は現場責任者レベルで決定できることではないので、必ず経営トップによる経営会議にかけられる案件です。
顧客側のメリットと自社が約束できるサービスレベルを明確に伝えることが重要なのです。
*** 顧客企業に確認(荷姿別物量) ***
続いて共同配送サービスを事業化する際に事前に顧客企業に確認を取っておきたい項目について説明します。
まず最初に、顧客企業(小売企業)の荷姿別物量を正確に把握しておくことが重要です。
小売業に物量の提示を求めると、POSデータをベースに回答される場合がある為、注意が必要です。
小売業の業務では基本的にピース単位で業務を行う為、こうした回答になるのですが、卸売企業側が物流を行う場合はケース単位とピース単位の両方が必要です。
ケースとピースの比率によって、物流センターのプロセスは大きく異なります。
下図のように物流作業を行う作業工程別に荷姿を整理して、それぞれの荷姿別に物量を把握することが重要です。
荷姿別の物量データは、設備能力や必要人員数に関わる重要な要素です。
曖昧なデータで提案が先に進むことがありますが、ここはしっかりと顧客と交渉して正確なデータを入手することが大切です。
*** 顧客企業に確認(オペレーションタイプ) ***
卸売企業が自社の倉庫から小売企業の店舗へ納品を行う場合、倉庫のオペレーションタイプを必ず事前に確認しましょう。
また各オペレーションタイプ別にフローを整理し、それに伴う設備・人員・システムを準備する必要があります。
オペレーションタイプ別に自社で定型のフローや必要なリソースが整理出来るようになると、共同配送サービスをパッケージ化
しやすくなり、今後の顧客への展開がスムーズになるメリットもあります。
ここでは3つのオペレーションタイプとフロー、また相違点について解説します。
①DCタイプ(在庫型)
卸売企業が運営する物流センターで商品を入荷し、在庫します。
この場合在庫の所有権は卸売企業側にあります。出荷時は在庫の中から店別、カテゴリー別にピッキング、仕分けして店舗に納品を行います。
DCタイプの一般的なフローは下図の通りです。
②TCタイプ(総量納品型)
TCタイプには総量納品型と店別通過型の2通りのパターンがあります。
総量納品型は仕入先から商品別に総量で入荷された商品を店別、カテゴリー別に仕分けして店舗に納品する方式です。
TCは通過型なので、在庫保管はしません。一般的なフローは下図の通りです。
TCはDCと違って在庫をしない為、フローもシンプルになります。
③TCタイプ(店別通過型)
TCタイプ(店別通過型)は仕入先の方で予め店別に仕分けした状態で商品を卸売企業の物流センターに納品します。
物流センターでは口数の検品だけを実施し、店別に仕分けした後、店舗に納品します。一般的なフローは下図の通りです。
各顧客毎に上記3つのオペレーションタイプのいずれかを事前に顧客側と決定します。
顧客によってはアイテムのカテゴリ毎にDCとTCの複合型で運用する場合もあります。
このオペレーションタイプは、WMS(倉庫管理システム・在庫管理システム)の基本設計・設備・見積に大きく影響します。
よって、オペレーションタイプが決定するまでは提案も先に進めることは出来ません。
ちなみに物流コストの比率については、一般的にはTC(店別通過型)が一番低く、TC(総量納品型)、DCの順に高くなります。
ほとんどの卸売企業の経営者、現場マネージャーはこのオペレーションタイプによる入口から出口までのプロセスについて理解をされていません。
個々のプロセスの川上、および川下両方において、その作業をする為の人員・設備・システムなど無理解のうちに提案・準備が進められてしまい、上手く稼働しなかったり、見積もりと実コストで乖離が生じたりしているのです。
こうした物流事業構築の提案、準備において苦手意識があると共同配送サービスの事業化はなかなか進みません。
まずは自社がしっかりと物流センターの提案構築を行える為の知識習得をしましょう。
今回ご紹介した項目以外にも共同配送サービスの事業化には様々な事前情報が必要になりますが、主な項目を下記にざっとご紹介します。
1.在庫型の場合は、店舗からの発注データを分析して、作業工程を決定する必要があります。
2.在庫型の場合はピッキング時に店別摘み取り方式、総量摘み取り方式、店別荷揃え種蒔方式のいずれかを決定します。
3.店舗別のカテゴリー仕分け数の決定も重要です。カテゴリー仕分け数はオリコン数に関係し、最終的に車両台数に影響します。
4.顧客の商品について確認します。期限管理、ロット管理が必要かどうかは大きな要素です。
5.医薬品が含まれるかどうかも大きな点です。また取引先毎のアイテム数についても事前に確認をしておきましょう。
*** 最後に ***
運送委託業者の値上げにより、物流コストの上昇は今後も続いていきます。
また過疎化が進む地方においては運送業者が荷物を運んでくれないケースも増えてきています。
各卸売各社の自助努力だけでは継続的な供給が困難な時代になってきました。
だからこそ、同業・異業の垣根を越えた共同配送サービスの事業化は今後の卸売企業にとっても最重要な戦略の一つなのです。
参考文献
国土交通省ホームページ「物流総合効率化法について」
臼井 秀彰著『卸売業のロジスティクス戦略』 同友館
尾田 寛仁著『仮想共配プロジェクト』 三恵社
原田 啓二著『物流経営戦略の新常識』 流通研究社
卸売企業が共同配送サービスを事業化する為には、これまで小売側で運営されていた物流センターを自社で運営する必要があります。
SCMラベルの対応・ASNによるノー検品の対応・無線ハンディターミナルによる店別・カテゴリ別の仕分け機能を実装したWMS(倉庫管理システム)は必須となります。
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